遺言書がない場合の相続手続き

遺言書がない場合、共同相続人全員で、遺産の分割についての話し合いを行うことになります。この話し合いを遺産分割協議といい、その前提として、①相続人、②相続財産、および③各相続人の具体的相続分の確定作業が必要となります。

(1)相続人を確定する

遺産分割協議は全相続人の一致により初めて成立する手続きであるため、相続人の一人でも欠いて行われた遺産分割協議は無効となります。そのため、相続人の調査は正確になされる必要があります。  

注意!

こんな場合はどうする?

①相続人の中に行方不明者がいる場合
相続人の中に行方不明の方がいる場合、他の相続人が採るべき方法として以下の2つの選択肢が考えられます。
まず、その者の生死が7年以上不明な場合は、利害関係人(失踪者の配偶者・法定相続人など)が家庭裁判所へ失踪宣告を申し立てる方法があり、失踪宣告がなされると生死不明となった時点から7年間の期間満了を待って死亡したものとみなされます。被相続人よりも前に、失踪者が死亡した者とみなされれば、その者に子などがいる場合には、その子が失踪者を代襲して相続人となりますので、この代襲相続人を加えて遺産分割協議を行うことになります。
上記以外の場合、すなわち生死不明期間が7年に満たない場合やどこかで生存しているとの噂がある場合などは、利害関係のある共同相続人が家庭裁判所に対し不在者の財産管理人の選任を請求することになり、ここで選任された財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加します。なお、財産管理人には処分権限がありませんので、分割協議を成立させるにあたり家庭裁判所の許可を得る必要があります。 このように、共同相続人のなかに行方不明の者がいる場合は、家庭裁判所に対し、不在者の財産管理人の選任、または失踪宣告の申立を行う必要があり、この手続きを経ずに、行方不明者を除外してなされた遺産分割協議は無効となります。

②相続人の中に未成年者(18歳未満)がいる場合
未成年者が法律行為をするには、法定代理人(通常は親権者)の同意が必要です。しかし、相続において被相続人の配偶者と子は共に利害が対立する関係にあります。そのため親権者が未成年の子を代理して遺産分割協議を行うことは利益相反行為として許されず、子のために特別代理人を選任するよう家庭裁判所へ申立てなければなりません。
未成年の子が複数いる場合は、それぞれにつき特別代理人を選任する必要があり、また子が相続放棄する場合であっても、特別代理人の選任を要します。   なお、親が相続放棄をしていれば、未成年の子の代理人として遺産分割協議に参加することはできますが、この場合であっても、複数の子を代理することはできず、子一人だけを代理し、その他の子については特別代理人の選任を申立てなければなりません。

③相続人の中に認知症の方がいる場合
相続人の中に、認知症や知的障がい、精神障がい等により、自分の行為や、その行為の結果がどのような意味を持つのか判断できない人がいる場合、家庭裁判所に後見開始の審判を申立てて、成年後見人を選任してもらい、その成年後見人と遺産分割協議をする必要があります。
この後見には、保護が必要な程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの制度があり、判断能力が残存する「保佐」「補助」の場合に保佐人や補助人が遺産分割を代理するには、保佐・補助開始の審判とは別に遺産分割の代理権を付与する旨の審判が必要となります。また、被補助人本人が遺産分割に参加する場合は、補助人の同意が必要となることから、補助開始の審判とは別に補助人に同意権を付与する旨の審判を受ける必要があります。

④相続人の中に胎児がいる場合
相続において胎児は既に生まれたものとみなされますので、胎児を除外した遺産分割協議は無効と解されます。そのため、胎児の出生を待って特別代理人選任の申立を行い、その代理人と遺産分割協議をするのが無難といえます。なお、緊急を要する場合は、遺産分割審判の申立をすることも可能です。

誰が・どれだけ相続するかは民法で定められている

相続とは本来、被相続人の死亡により、残された家族が経済的困窮に陥ることを防止し、相続財産によって相続人の生活保障に資するために認められた制度です。そのため民法では、婚姻・血族関係をもとに、相続人の範囲(法定相続人)と、各相続人の取り分(法定相続分)について一定の目安を定めています。 ※法定相続分はあくまでも目安であり、法定相続人間で合意がある場合には、これとは異なる分割をすることも可能です。また、被相続人が遺産分割の方法を指定した遺言等を残している場合には、その内容が優先されます。

法定相続人の範囲と相続順位

原則として①配偶者は存命であれば常に相続人となり、②それ以外の相続人については優先順位が決まっていて、第1順位が子、第2順位が親(親が亡くなっている場合は祖父母、曾祖父母と生きている限り遡る)、 第3順位が兄弟姉妹。第1順位がいれば、第2順位は相続せず、第1順位がいない場合に第2順位が、それもいなければ第3順位の者が相続人となります。

法定相続分

法が定める財産取得の割合は以下のようになります。

①第1順位:配偶者と子とで財産を分ける場合は配偶者が1/2、子が1/2。子が複数存するときはその順位の相続分(1/2)を等分します。 (例)子が2人の場合:1/4ずつとなります。配偶者が既に亡くなっている場合には、子のみが相続人となります。また、子が既に亡くなっているが、その子に子(被相続人からすれば孫)がいる場合は、その孫が子に代わって相続人となります(これを代襲相続といいます)。

②第2順位:配偶者と親とで財産を分ける場合は配偶者が2/3、親が1/3。

③第3順位:配偶者と兄弟姉妹とで財産を分ける場合は配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4。兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その子が代襲相続人となります。

順位 配偶者の 法定相続分 配偶者以外の相続人
第1順位 1/2 子(子が先に亡くなっている場合は孫)→1/2
  子が複数の場合は人数で1/2を均等に分割
第2順位 2/3 親(直系尊属)→1/3 
複数人いる場合は人数で1/3を均等に分割
第3順位 3/4 兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子)→1/4 
複数人いる場合は人数で均等に分割

代襲相続"とは?

本来の相続人が既に死亡、もしくは相続欠格、相続廃除となった場合、その子どもが代わりに相続すること。子と兄弟姉妹の相続について適用され、子の場合は、代襲相続人である子(被相続人から見れば孫)が既に死亡しているときは、その子(ひ孫)が代襲できます(再代襲)。兄弟姉妹の場合は再代襲は認められていません。

異母兄弟等がいる場合、相続分はどうなるか?

兄弟姉妹が相続人となる場合、父母を同じくする兄弟姉妹と、異父・異母兄弟姉妹とでは法定相続分が異なります。 異父・異母兄弟姉妹の相続分は、父母を同じくする兄弟姉妹のそれの半分となります。

養子・特別養子の相続分はどうなるか?

法律上、嫡出子も養子も、子であることに変わりはく、原則通り同順位で、等分に相続します。
なお、養子は実親との間にも親子関係があり、また親族関係も継続していますので、実親の相続、および兄弟姉妹の相続についても相続権を失いません。一方、特別養子の場合は養子縁組の成立により実親・親族との関係は終了しますので、これらの者との間で相続関係は発生しません。

前妻の子、後妻の連れ子がいる場合の相続分はどうなるか?

配偶者であれば常に相続人になりますが、離婚すると戸籍も別になり、赤の他人となります。そのため、前妻は相続人とはなりません。
もっとも、夫婦との間に子があれば、その後離婚しても、子との間の血族関係までは切れるわけではありませんので、前妻の子は相続人となります。  
では後妻の連れ子に相続権は認められるでしょうか。まず、後妻は被相続人の配偶者として常に相続人となります。
一方、後妻の連れ子との間には、血族関係がありませんので、再婚に際し、被相続人と養子縁組をしていない限り、相続権は認められません。

本来相続人であるべき者が相続人でなくなる場合とは?

本来は相続人になるべき者であっても一定の事情があったり、あるいは被相続人の意思で相続権を剥奪された場合には、相続人になれなくなります。
相続人の相続資格を剥奪する制度には、①一定の事由があれば当然に相続資格を喪失する相続欠格、および②被相続人の意思により相続権を剥奪する相続人廃除があります。

①相続欠格
相続欠格とは、相続に関して不正な利益を得ようとして、不正な行為をし、またはなそうとした者から相続人資格を剥奪する制度のことで、欠格事由に該当する行為があれば、格別の裁判上の宣告や被相続人の意思表示がなくとも、法律上当然に相続資格は剥奪されます。欠格事由は以下の通りです。

  • 故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を殺害し、または殺害しようとして刑を受けた者
  • 被相続人が殺害されたことを知りながら、それを告訴・告発しなかった者(殺害した者が自己の配偶者・親・子である場合に告訴・告発をしなくとも欠格者とはならない)
  • 詐欺または脅迫によって、被相続人が遺言をしたり、取り消し・変更することを妨げた者
  • 詐欺または脅迫によって被相続人に遺言をさせたり、取り消し・変更をさせた者
  • 被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した者
これらの事由に該当するとなんら手続きを要せず、当然に相続権を失い、また遺贈を受ける資格も失います。ただし、相続欠格者に子がいる場合は、代襲相続までは否定されませんので、その子が代襲相続人として相続権を有することになります。


②相続人廃除
相続人の廃除とは、相続欠格のように相続人資格を当然に否定するほどの重大な事由はないが、被相続人からみてその者に相続させたくないと考えるような虐待や侮辱、非行などがあり、かつ被相続人がその者に相続させることを欲しない場合に、被相続人の請求に基づいて家庭裁判所が審判または調停によって、相続権を剥奪する制度のことをいいます。相続人廃除の請求は、被相続人が直接、家庭裁判所へ申立るほか、遺言で行うこともでき、遺言書に廃除請求の意思表示がなされていれば、遺言執行者がその請求を行うことになります。
相続廃除の制度によって、相続権を喪失させることができるのは、遺留分を有する推定相続人だけですので、兄弟姉妹が推定相続人となる場合には、この制度を適用せず、(相続分をゼロとする)遺言書の作成だけで相続させないようにすることができます。

相続廃除の申立要件として、下記の事由に該当することが必要です。

  1. 被相続人に対する虐待
  2. 被相続人に対する重大な侮蔑
  3. その他の著しい非行
3の非行には①被相続人の財産を不当に処分した、②賭博などを繰り返して多額の借金を作り、これを被相続人に弁済させた、③浪費、遊興、犯罪行為などの行為を繰り返したなどがあたります。 ただし、家庭裁判所はこれらの事由があったとしても必ず相続人の廃除を認めるというわけでもなく、慎重に審議を行う傾向にあるため、相続人の廃除が認められた事例はそれほど多くはありません。

(2)相続財産を確定する

遺産分割に相続財産以外のものが含まれていれば分割協議全体が無効となることもあり得ますし、また、相続財産の一部を除外して遺産分割がなされた場合は、除外した相続財産につき再度分割協議を要することになりますので、相続財産を正確に把握することは、円滑に遺産分割を行う上で重要です。

相続の対象となる財産

相続の対象となる財産は、被相続人が死亡し、相続が開始したときに、被相続人が所有していたすべての財産が対象となります。これには借金や未払金、連帯保証債務などのマイナスの財産も含まれます。  
もっとも、遺産分割の対象となるのはプラス財産だけで、マイナス財産である金銭債務などは、遺産分割を経ることなく相続分に応じて各共同相続人に承継されることになります。そのため、特定の者が債務を引き受けるような遺産分割協議が成立しても、それは相続人相互の間では有効ですが、債権者に主張することはできません。というのも、相続人に任意に債務負担の割合を決めることを認めれば、返済能力のない者に債務全額を引き受けさせるような事態も起こりかねず、債権者の権利が害されるからです。 
  ただし、法定相続分とは異なる割合で債務を負担することに債権者が承諾すれば、債権者との間でも有効に成立しますので、この場合には、債務を引き受けない他の相続人は債権者との間で免責的債務引受契約証書を作成しておくようにします。

相続財産にならないもの

被相続人の一身に専属する権利義務(一身専属権)は相続できません。年金受給権や運転免許、職業資格、扶養請求権や財産分与請求権などがこれに該当します。 またお墓・墓地・位牌などの祭祀財産も相続財産から除外され、祭祀主宰者が承継することになります。

相続財産かどうか問題となるもの

①生命保険金

生命保険金が相続財産となるかどうかは、保険金受取人として誰が指定されているかにより結論が異なります。契約者である被相続人が被保険者でかつ受取人に指定されている場合は、被相続人は自己のために生命保険契約を締結したものと考えられますので、保険金請求権は相続財産に組み込まれ、遺産分割の対象となります。  他方、保険金受取人として特定の者が指定されている場合は、その者の固有の請求権となりますので、相続財産とはなりません。また、受取人として単に「相続人」とだけ指定されている場合にも、相続人固有の請求権と考えられ、相続財産とはなりません。この場合、相続人は、法定相続分とは無関係に平等に、受け取った保険金を取得することになります。

②死亡退職金

死亡退職金とは、死亡を契機として受け取ることのできる退職金のことで、死亡退職金が相続財産に含まれるかどうかは、受取人の指定があるか否かで異なります  会社の就業規則等で受取人が定められていない場合は、退職金の請求権は被相続人本人が取得し、その請求権を相続人が相続財産として引き継ぐことになります。  他方、受取人の指定がある場合には、相続財産には含まれず、指定された者が固有の権利として請求することができます。

③香典や弔慰金

香典や弔慰金は相続財産には含まれず、葬式費用に充てた後、なお余りがあれば喪主が自分の裁量によってその使い方を決定してもよいとされています。なお弔慰金の名目で贈られた金銭が死亡時の賃金や勤続年数を基準に定められた金額である場合には、実質的には死亡退職金と考えられ、これと同様の扱いをすることになります。

相続財産の調査方法

不動産 不動産登記事項証明書や名寄帳、固定資産税の通知書等を手掛かりに調査をしていきます。
預貯金 預金通帳で確認をとります。金額が確定できない場合は、金融機関から被相続人の死亡日の残高証明書を取り寄せて調査します。通帳を紛失している場合は被相続人が生前取引していたと思われる金融機関に口座照会を行います。
株式・有価証券 証券会社からの通知を手掛かりに口座照会を行います。
債務調査 消費者金融での借り入れやクレジットカードの使用がある場合は信用情報機関へ問い合わせて借入額を調査します。

相続財産の評価

遺産分割の際の財産の評価は、分割協議をするときの時価を基に行うのが通例です。 しかし、遺産の大部分を占める不動産には評価基準が複数存在し、その評価を複雑にしています。※相続税の評価とは異なる場合があります。

土地の評価 土地の評価基準として①固定資産評価額、②路線価、③公示価格があります。固定資産評価額はその名の通り、固定資産税を評価する際の基準となるもので、不動産登記の登録免許税もこの固定資産評価額を基に算出されます。同じ課税でも相続税を決定する際の基準となるのが路線価です。これは土地について道路に面した標準値の1㎡あたりの値段を示すもので、土地の位置や形状により補正値を加えて算出されます。最後に国が土地取引の指標となる基準として公示しているのが公示価格です。これは国の嘱託を受けた不動産鑑定士が標準値の近隣の取引価格などを参照にして価格を決めるもので、1㎡あたりの更地の価格を示します。固定資産評価額および路線価はともに公示価格よりも低めに設定されており、前者は公示価格の7割、後者は公示価格の8割といわれています。この公示価格は土地の時価として参照できる額ですが、公示価格は評価地点や評価時期が限られていますので、評価対象地が公示価格の評価地点でない限りそのまま適用することはできません。そこで、路線価をもとに公示価格を割り出していきます。前述した通り、路線価が公示価格の8割であることを利用して下記の数式で算出します。 路線価×地積×1.25=公示価格 土地にマイナス要素(傾斜地、間口矮小、不整形など)がある場合には、これに「補正」も考慮します。ここで算出された金額を土地の時価として遺産分割を行います。あるいは付近の不動産業者に相場の聞き取りをしたものを一応の目安として遺産分割の参考としてもよいかと思います。
建物の評価 固定資産税評価から算出します。固定資産税の評価額は時価の5~6割となっていますので、これを0.6で割り戻したものを時価と見ます。
借地権の評価 更地価格の6~8割
底地権の評価 土地上に借地権の負担を負った所有権は、更地価格から借地価格を差し引いた額となります。
賃貸マンションの評価 マンション等を人に貸している場合は固定資産税評価額の7割程度が賃貸マンションの評価額となります。

(3)各相続人の具体的相続分を確定する

各相続人の具体的相続分を確定するには、特別受益や寄与分、遺留分を考慮する必要があります。

特別受益と寄与分

法定相続分は、被相続人と相続人との間の事情や関係性を一切考慮せず、一律に定められたものです。そのため、共同相続人のなかに、被相続人から遺贈または生前に事業の開業資金や婚礼資金・住宅資金等の援助を受けた者や、あるいは被相続人を献身的に介護した者、家業を手伝い財産形成に貢献した者等がいる場合、こうした事情を斟酌せずに法定相続分で一律に遺産分割がなされると、相続人間で不平等が生じ、著しく不公平な結果を招来しかねません。そこで法は、このような不平等・不公平を是正する措置として、特別受益及び寄与分という制度を設けています。

"特別受益"とは?共同相続人のなかに、遺贈や生前贈与により被相続人から特別の利益(特別受益)を受けたもの(特別受益者)がいる場合には、相続人間の公平を担保するため、下記の方法により、各人の法定相続分が修正されます。
詳細についてはこちらを参照ください。

"寄与分"とは?寄与分制度とは、相続人のなかに、被相続人の家業である農業や自営業などに従事し、財産の維持または増加に特別の貢献をした者がいる場合に、その貢献度を金銭的に換算し、相続財産の一部として評価する制度のことをいいます。
詳細についてはこちらを参照ください。

遺留分

被相続人は生前あるいは死後においても、自己の所有する財産を自由に処分できるのが私有財産制度の原則です。もっとも、法が残された遺族の生活保障を主眼として法定相続分を規定した趣旨を完全に無視することはできず、また財産維持や増加に貢献した者の期待を保護する必要からも、相続財産の一定部分については、相続人が取得できる旨法律上保障されていますので、被相続人であってもこの部分については自由に処分することが制限されます。これを遺留分制度といいます。
詳細についてはこちらを参照ください。

(4)遺産分割をする

相続人及び相続財産が確定すれば、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産の分割方法には次の4つの方法があります。

現物分割 換価分割 代償分割 共有
それぞれの財産を誰が取得するかを決める方法 相続財産を売却し、その売却代金を相続分に応じて分配する方法 特定の相続人が遺産を全て相続し、他の相続人に相続分に応じた現金を支払う方法 財産を相続人で共有する方法

相続財産が自宅不動産のみの場合の分割方法

相続財産が自宅不動産のみの場合の分割方法としては①換価分割、②代償分割が考えられます。
いずれの方法を選択するかは、遺産分割後、共同相続人の誰かが当該不動産に居住するつもりがあるか否かで決定されます。  

例えば、被相続人が一人暮らしであった場合で、相続人の誰も、居住の意思がない場合には、当該不動産を売却して、それにより得た金銭を法定相続分に応じて分配する換価分割という方法をとることになります。これに対し、相続人の誰かが、当該不動産に居住する意思がある場合や、相続開始前から被相続人と同居し、以後も居住する意思がある場合には、その者が当該不動産を取得し、それと引き換えに他の相続人には代償金を支払う代償分割によることになります。

しかし、代償分割を行うには、ある程度の資力が必要となりますので、居住する意思はあるが代償金を支払う資力がない場合は換価分割によらざるを得なくなります。

換価分割や代償分割ではどうしても調整がつかないという場合には、分割をせずに共同相続のまま、すなわち共有状態にしておくということも考えられますが、数次相続が発生した場合に権利関係が複雑になったり、いざ売却しようにも共同相続人全員の合意が得られず売却できない、といった後のトラブル発生の原因ともなり得ますので、お勧めはしません(不動産共有化のリスク)。
なお、換価分割の場合、売却に先立ち、相続人全員で相続登記を経由する必要がありますが、共同相続人のうちの一人を代表者として相続登記を申請することも可能です。

不動産共有化のリスク

  • 共有者の一人に資金が必要となっても、その持ち分だけでは買い手がつかず、また不動産全体を売却したり、大幅に改築する場合には、共有者全員の同意が必要となる。
  • 共有者に相続(いわゆる二次相続)が発生した場合には、さらに権利関係が複雑になる。
  • 相続税につき現金がない場合には、不動産を物納することも可能ではあるが、共有者間に争いがある不動産については物納できない可能性がある。

相続人に海外赴任中の者がいる場合の遺産分割協議

遠方などの事情により遺産分割協議に参加できない場合には、相続人の誰かが作成した遺産分割案を郵送し、持回り方式で遺産分割協議に代えることが認められています。持ち回りで受け取った遺産分割協議書には署名捺印し、印鑑証明書を添付しなければなりません。
しかし、海外在住のため日本に住所がなく、印鑑証明書の交付を受けられない場合には、印鑑証明に代えてサイン証明(署名(および拇印)証明書)を添付すればよいとされています。  

サイン証明とは、日本に住民登録をしていない海外在住者に対し、日本の印鑑証明書に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(および拇印)が確かに領事の面前で証明されたことを証明するものです。交付を受けるための具体的な手続きとしては、遺産分割協議書を住んでいる国の日本大使館あるいは総領事館に持参して、領事の面前で署名および拇印を捺印し、遺産分割協議書と署名(および拇印)証明書を綴り合せて割り印をします。 これを日本へ返送すれば、この遺産分割協議書で相続登記等の申請が可能となります。

相続人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡した場合

相続分の譲渡は、遺産全体に対して各共同相続人が有する包括的持分ないし法律上の地位の移転をいうと解されていますので、相続分を譲り受けた者は、遺産分割協議が成立するまでの間、共同相続人と同様、相続財産を管理し遺産分割を請求し、またはこれに参加する権利を取得することになります。したがって遺産分割の協議に際し、相続分を譲り受けた第三者を参加させる必要があります。  
しかし、相続人の中には、見ず知らずの第三者を加えて遺産分割協議をすることに抵抗を感じられる方もいらっしゃるかと思います。そこで、法は他の共同相続人に第三者に譲渡された相続分の取戻権を認めています。  

この取戻権は、譲渡から一か月以内に行使する必要があり、その方法としては、譲受人に対する一方的な意思表示で足り譲受人の承諾は要しませんが、譲受人に対し、行使時の相続分の評価額および費用を償還する必要があります。

では、こうして取戻した相続分は誰に帰属することになるのでしょうか。この点については争いがあり、相続人全員に帰属するとの説もありますが、共同相続人のうち一人が単独で行使した場合はその者に独占的に帰属し、共同して行使した場合は、償還した価格および費用の割合に応じて各相続人に帰属すると解するのがベターかと思われます。

死後認知を請求する者がいる場合

死後認知の訴えを提起している者がいる場合には、仮に認知が認められてその者が相続人になったとしても、既に成立した遺産分割協議は無効とはならず、他の共同相続人は認知によって相続人になった者に対して、その相続分に見合った金銭を支払えばよいとされています。したがって、認知の訴えを提起している者を除外して遺産分割協議を進めることに問題はありません。

遺産分割協議がまとまらない場合

相続人の間で遺産分割協議がまとまらない場合や、協議に応じようとしない相続人がいる場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることになります。
遺産分割調停は、裁判官と調停委員から構成される調停委員会によって進められ、各相続人から事情を聞いたり、場合によっては妥当な解決策を示して紛争解決へ向けて家庭裁判所が関与するものの、最終的には相続人全員の話し合いによる合意が解決内容となります。この意味で、遺産分割調停は、裁判所という公的な第三者機関を介した話し合いと言えます。相続人全員の合意が成立した場合は、調停調書が作成されます。この調書には確定判決と同一の効力がありますので、これに基づいて調停の内容を強制的に実現することが可能となります。
他方、合意が成立しなかった場合は、自動的に審判手続きへ移行することになります。

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