こんにちは。司法書士の辻です。

「自分の代で会社を畳むしかないのかな」「従業員のことを考えると、なんとか事業を続けてほしいけれど……」――最近、こういったお悩みを持つ経営者の方からのご相談が本当に増えています。

当事務所は大阪・和歌山の中小企業をはじめ、東京など関東圏の法人のお客様からも事業承継に関するご相談をいただいておりますが、後継者不在という課題はどの地域にも共通する深刻なテーマです。

中小企業庁のデータによると、経営者が70歳以上の中小企業は約245万社にのぼり、そのうち約半数以上が後継者未定の状態とされています。後継者が見つからないまま廃業してしまえば、長年築いてきたお客様との関係、技術やノウハウ、そして何より従業員の雇用が失われてしまいます。

そこで注目されているのが、スモールM&A(エムアンドエー) という選択肢です。「M&Aなんて大企業の話でしょう?」と思われるかもしれませんが、実はいま、年商数千万円〜数億円規模の会社や個人事業でもM&Aが活発に行われています。

この記事では、司法書士の立場から、スモールM&Aの基本的な仕組み、メリット・デメリット、具体的な進め方までをわかりやすく解説します。


スモールM&Aとは? 大企業のM&Aとの違い

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併と買収」を意味します。ニュースで見かけるような数百億円規模の大型案件をイメージされる方が多いかもしれませんが、スモールM&Aは、もっと身近な規模の事業の引き継ぎを指します。

明確な定義があるわけではありませんが、一般的には譲渡価格が数百万円〜数億円程度の案件をスモールM&Aと呼んでいます。

項目大企業のM&AスモールM&A
譲渡価格数十億円〜数千億円数百万円〜数億円
対象上場企業・大企業中小企業・個人事業
目的市場シェア拡大・グローバル展開事業承継・新規事業参入
期間半年〜数年3か月〜1年程度
仲介・アドバイザー大手投資銀行・証券会社M&A仲介会社・士業・マッチングサイト

近年では、飲食店、美容室、クリニック、介護事業所、IT企業、製造業など、さまざまな業種でスモールM&Aが成立しています。

「会社を売る」ことは恥ずかしいことではありません

ご相談の中で感じるのは、「会社を売る=身売り」というマイナスのイメージをお持ちの経営者がまだ少なくないということです。

しかし、考えてみてください。後継者がいないまま廃業すれば、従業員は職を失い、取引先にも影響が及びます。一方、事業を引き継いでくれる方に託すことができれば、雇用が守られ、お客様へのサービスも続き、経営者ご自身も譲渡対価を受け取ることができます。

事業承継型のM&Aは、むしろ**「経営者としての最後の責任を果たす手段」**として、前向きに捉えるべきものだと私は思います。

スモールM&Aの3つの主な手法

スモールM&Aにはいくつかの手法がありますが、中小企業でよく使われるのは以下の3つです。

1. 株式譲渡

会社の株式を買い手に譲渡する方法です。会社の法人格がそのまま引き継がれるため、取引先との契約関係や許認可、従業員の雇用契約などが原則としてそのまま維持されます。中小企業のM&Aでは最もよく使われる手法です。

司法書士は、この株式譲渡に伴う株主名簿の書換えや、役員変更登記などの手続きに関与します。

2. 事業譲渡

会社全体ではなく、特定の事業部門や資産だけを切り出して譲渡する方法です。売り手は会社自体を残しつつ、一部の事業を引き継いでもらうことができます。

ただし、契約関係や許認可を個別に移転する手続きが必要になるため、株式譲渡に比べて手間がかかる傾向があります。

3. 会社分割

会社の事業を分割して別の会社に承継させる方法です。組織再編の一種であり、法的な手続きがやや複雑ですが、税務上のメリットがあるケースもあります。

※会社分割については、当事務所のブログ記事「会社分割とは?吸収分割・新設分割の違いと手続きの流れを解説」もご参照ください。

手法引き継ぐ範囲手続きの複雑さ許認可の承継司法書士の関与
株式譲渡会社全体比較的シンプル原則そのまま役員変更登記・株主名簿書換え
事業譲渡特定の事業・資産やや複雑個別に再取得が必要不動産移転登記等
会社分割事業単位で分割複雑承継可能な場合あり分割登記・設立登記

【事例】兵庫の町工場をスモールM&Aで存続させたケース

兵庫県内で20年以上にわたり金属加工業を営んでこられたEさん(72歳)は、お子様がいらっしゃらず、従業員の中にも後を継げる方がいませんでした。

「従業員は10人超。みんな長く働いてくれている。自分が引退したら、この人たちはどうなるのか」――Eさんが最初にご相談にいらっしゃったのは、そんなお悩みからでした。

結果として、類似の事業を展開する企業が自社のグループに迎え入れたい」という意向でした。

株式譲渡の手法で進め、当事務所はその法務サポートを担当し、従業員は全員そのまま雇用が継続されました。

当事務所ではこのような事例が複数あります。

スモールM&Aの一般的な流れ

スモールM&Aは、おおむね以下のステップで進んでいきます。

ステップ1:初期相談・事前準備(1〜2か月) まず、自社の現状を整理します。財務状況の確認、事業の強みの棚卸し、希望条件の整理などを行います。この段階で、M&A仲介会社や司法書士・税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

ステップ2:相手先の探索・マッチング(1〜6か月) 仲介会社やマッチングサイトを通じて、買い手候補を探します。近年はオンラインのマッチングプラットフォームも充実しており、以前に比べて買い手を見つけやすくなっています。

ステップ3:トップ面談・条件交渉(1〜2か月) 売り手と買い手のトップ同士が面談し、経営に対する考え方やビジョンを確認します。金額だけでなく、「自分の会社を本当に大切にしてくれるか」も大事な判断基準です。

ステップ4:基本合意(1〜2週間) 大まかな条件で合意ができたら、基本合意書を締結します。この段階で独占交渉権が付与されるのが一般的です。

ステップ5:デューデリジェンス(1〜2か月) 買い手側が、売り手の財務・法務・税務などを詳細に調査します。ここで問題が見つかると、条件の再交渉や案件の中止に至ることもあります。

ステップ6:最終契約・クロージング(2〜4週間) 最終的な契約書を締結し、株式や事業の引き渡し、代金の支払いを行います。司法書士は、この段階での登記手続き(役員変更、本店移転、不動産の名義変更など)を担当します。

全体として、半年〜1年程度が目安になります。

スモールM&Aで司法書士が果たす役割

「M&Aの専門家は仲介会社や弁護士では?」と思われるかもしれません。たしかに、M&A全体のコーディネートは仲介会社やアドバイザーが行うことが多いですが、手続き面では司法書士の関与が欠かせません

具体的には、以下のような場面で司法書士がサポートします。

  • 役員変更登記:買い手側の代表者への変更、旧役員の退任登記
  • 本店移転登記:M&A後に本店所在地を変更する場合
  • 株主名簿の書換え:株式譲渡に伴う名義変更
  • 不動産の名義変更登記:事業用不動産の所有権移転
  • 定款変更に伴う登記:商号変更、目的変更など
  • 組織再編の登記:会社分割や合併を行う場合
  • 株式名義書き換え:契約書から手続き全般

当事務所では、これらの登記手続きに加えて、M&Aに至るまでの事業承継の全体像についてもご相談に応じています。

よくあるご質問(Q&A)

Q1. スモールM&Aにはどのくらいの費用がかかりますか?

費用は大きく分けて、M&A仲介会社への手数料と、各種専門家への報酬があります。仲介手数料は成功報酬型が多く、譲渡価格の5〜10%程度が相場です(最低報酬が設定されている場合もあります)。司法書士への登記報酬は案件の内容によりますが、単純に役員変更登記であれば数万円〜、不動産の移転登記であれば固定資産税評価額に応じた登録免許税と報酬が発生します。事案によりますので、まずはお見積りをお取りいただくことをおすすめします。

Q2. 従業員に知られずにM&Aを進めることはできますか?

はい、M&Aの交渉段階では秘密保持が非常に重視されます。買い手候補との間で秘密保持契約(NDA)を締結し、従業員や取引先への開示は最終契約の直前まで行わないのが一般的です。ただし、クロージング後は速やかに従業員や取引先に説明する場を設けることが、円滑な引き継ぎのために大切です。

Q3. 赤字の会社でもM&Aは可能ですか?

可能性はあります。たとえば、特定の技術や人材、顧客基盤、許認可(建設業許可など)に価値がある場合、赤字であっても買い手がつくことがあります。実際に、財務的には厳しい状況でも、立地や顧客リストに魅力を感じた買い手が成約に至ったケースは珍しくありません。まずは一度、専門家に相談されてみてください。

まとめ――「会社を残す」という選択肢を知ってほしい

後継者がいないからといって、廃業が唯一の道ではありません。スモールM&Aを活用することで、会社の技術やノウハウ、従業員の雇用、お客様との関係を次の世代に引き継ぐことができます。

大切なのは、「まだ先の話だ」と後回しにしないことです。M&Aは相手があることですから、余裕を持って準備を始めるほど、よい条件でのマッチングが実現しやすくなります。経営者ご自身が元気なうちに動き始めることが、何よりの事業承継対策です。

当事務所では、大阪・和歌山の中小企業の皆さまを中心に、東京をはじめとする各地のクライアント様の事業承継もサポートしております。登記手続きだけでなく、事業承継の方向性についてのご相談から対応しておりますので、「何から始めればいいかわからない」という段階でも、どうぞお気軽にお声がけください。

相続に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。初回のご相談は無料で承っております。


A&T司法書士事務所 / 相続・相続対策・事業承継の専門家