「家族信託とは?相続対策の新しい選択肢をわかりやすく解説」
こんにちは。司法書士の辻です。
7月に入り、お盆が近づいてくると、久しぶりに家族が集まって「そういえば、うちの財産ってどうなるんだろう」と話題になることがあります。当事務所でも毎年この時期になると、相続対策に関するご相談が増えてきます。
今回は、近年とくに注目を集めている「家族信託(民事信託)」についてご説明します。「聞いたことはあるけど、よくわからない」という方が多いテーマですが、使い方次第で遺言書や成年後見制度では対応できない場面をカバーできる、非常に柔軟な仕組みです。ぜひ最後までお読みください。
当事務所は大阪・和歌山を中心に相続対策のご相談をお受けしていますが、「親が認知症になってから相談に来られた」というケースが後を絶ちません。そのたびに「もう少し早くご相談いただいていれば、もっと選択肢があったのですが…」とお伝えするのが心苦しいときがあります。家族信託はまさに「元気なうちにしかできない対策」の代表格です。この記事が、早めに動くきっかけになれば幸いです。
家族信託とは何か?
家族信託とは、自分(委託者)の財産を信頼できる家族(受託者)に管理・運用してもらい、その利益を自分や指定した人(受益者)が受け取る仕組みです。信託銀行が使う「商事信託」と区別して、家族間で設定するものを「民事信託」または「家族信託」と呼びます。
たとえば、親が自分の不動産や預金を子どもに信託し、「自分が元気なうちは自分が管理するが、認知症になったら子どもが管理・処分できるようにしておく」という使い方ができます。現在の信託法が整備されたのは約20年前ですが、ここ10年ほどで急速に普及が進み、現在は多くの専門家が相続対策の選択肢の一つとして提案するようになっています。
家族信託の3つの登場人物
家族信託には、委託者・受託者・受益者という3つの役割が登場します。委託者は財産を信託する人で多くの場合は親になります。受託者は財産を管理・運用する人で、信頼できる子どもや家族が担います。受益者は信託財産から利益を受け取る人で、委託者本人や親族が指定されます。
委託者と受益者は同一人物でも問題ありません。むしろ「財産の管理は子どもに任せるが、利益(家賃収入や売却代金)は自分が受け取る」という形が一般的です。この「管理する人」と「利益を受け取る人」を分けて設計できる点が、家族信託の大きな特徴です。
なぜ今、家族信託が注目されているのか
背景にあるのは、認知症リスクと財産凍結問題です。
65歳以上の約5人に1人が認知症を発症するとされている現在、本人が認知症を発症して判断能力を失うと、原則として本人名義の預金を引き出すことも、不動産を売却することも、家族であっても勝手にはできなくなります。これが「財産凍結」と呼ばれる状態です。
銀行の窓口で「お父様の預金を引き出したい」とおっしゃっても、本人の意思確認ができない場合は断られます。不動産も同様で、売却・賃貸・担保設定のいずれも本人の署名が必要なため、実質的に動かせなくなります。
この問題を回避する手段として従来は「成年後見制度」がありますが、裁判所の管理下に置かれるため、使い勝手の悪さや費用の問題が指摘されてきました。(ただし、改正が予定されていて使いやすさが増す予定です。詳細は当事務所んブログをご参照ください)
家族信託であれば、認知症になる前に契約しておくことで、受託者である子どもが財産を凍結されることなく管理・処分できます。成年後見制度に比べて、家族の裁量で動けるのが最大の利点です。
家族信託でできること・できないこと
家族信託は非常に柔軟な制度ですが、すべてに対応できるわけではありません。正しく理解して活用することが重要です。
できることとしては、認知症になっても財産を凍結させない仕組みの構築、不動産の管理・売却・賃貸の継続、二次相続先の指定(「自分の次は孫に」など遺言書ではできない指定)、障害のある子への継続的な財産給付、などがあります。
一方でできないこともあります。身上監護(医療・介護などの手続き)は後見人が別途必要です。相続税の節税効果はありません。遺言の代わりにはなりますが遺留分の問題は残ります。農地の信託は農地法の制限があります。
家族信託は万能ではありません。状況によっては遺言書や成年後見制度と組み合わせて使うのが現実的です。たとえば、財産管理は家族信託で対応しつつ、身上監護が必要になった場合に備えて任意後見契約も締結しておく、という組み合わせがよく使われます。
具体的なケースで考えてみましょう
実際にご相談いただいたケースをもとに(個人情報は全て変更しています)、家族信託の活用例をご紹介します。
ケース①:大阪在住・田中家の場合(不動産オーナー)
大阪府内に収益マンションを数棟所有する田中さん(75歳)は、息子の一郎さん(50歳)に将来の管理を任せたいと考えていました。しかし、遺言書では自分が亡くなるまで一郎さんが動けません。また、自身の認知症リスクも気になっていました。
さらに悩みの種は、所有するマンションの一棟が老朽化しており、近い将来に建て替えか売却の判断が必要なことでした。認知症になってしまうと、本人の意思確認ができないため、この重要な判断も止まってしまいます。
そこで家族信託を設定し、一郎さんを受託者にしました。田中さんが元気なうちは田中さん自身が指示を出しつつ、認知症を発症した場合でも一郎さんが物件の修繕・売却・契約更新を行える体制を整えました。信託契約の中で「建替えや売却の判断は受託者の裁量でできる」と明記したことで、一郎さんは安心して将来の計画を立てられるようになりました。
ケース②:和歌山在住・山本家の場合(障害のある子への対応)
和歌山県在住の山本さん(70歳)には、知的障害のある次女(40歳)がいます。山本さんの最大の心配は「自分が亡くなった後、次女の生活費をどう確保するか」でした。
次女は判断能力に制限があるため、財産を相続しても自分では管理できません。そのまま現金を相続させても、誰かに騙し取られてしまうリスクがあります。かといって、長男に「次女の面倒を見てほしい」と口頭でお願いするだけでは、法的な拘束力がありません。
そこで長男を受託者、次女を受益者とする家族信託を設定しました。山本さんが亡くなった後も長男が次女のために財産を管理・給付できる仕組みを作り、毎月の生活費の給付額や使途についても信託契約書に明記することで、長男への負担とトラブルのリスクを減らすことができました。これは遺言書だけでは実現できないスキームです。
信託口口座とは?資産管理の安全性について
家族信託を設定する際、「信託口口座」という言葉が出てきます。これは、信託財産を受託者の個人財産と分けて管理するための専用口座です。
なぜ分けて管理するかというと、もし受託者(子ども)が破産した場合や受託者が亡くなった場合でも、信託財産は受託者の個人財産と切り離されているため、信託の目的のためだけに使われ続けるからです。これを「倒産隔離機能」といいます。
ただし、信託口口座を開設できる金融機関はまだ限られており、地方銀行や信用金庫によっては取り扱いがない場合もあります。
家族信託の手続きと費用の目安
家族信託は、信託契約書の作成と公正証書化が基本的な流れです。不動産が信託財産に含まれる場合は、登記手続きも必要になります。おおまかな流れとしては、まず家族でのヒアリングと財産の整理を行い、次に信託スキームの設計(どの財産を、誰に、どのような目的で信託するかの検討)、そして信託契約書の作成と公正証書化、信託口口座の開設、不動産がある場合は信託登記、という順番で進めます。
費用の目安としては、司法書士報酬が30〜80万円程度(財産規模・内容による)、公証人手数料が5〜15万円程度、不動産がある場合の登録免許税が固定資産税評価額の0.3〜0.4%となります。
家族信託と遺言書・成年後見制度の違いを整理する
家族信託を検討する際、「遺言書で十分では?」「成年後見制度と何が違うの?」という疑問をよくいただきます。3つの制度の主な違いをまとめます。
効力が発生するタイミングについて、遺言書は死亡後、成年後見制度は判断能力喪失後、家族信託は契約締結後すぐです。生前の財産管理は遺言書ではできませんが、成年後見と家族信託ではできます。家族の裁量については、成年後見は裁判所の監督があり限定的ですが、家族信託は比較的自由です。二次相続の指定は遺言書・成年後見ではできませんが、家族信託では可能です。継続的な費用については、遺言書は不要、成年後見は月1〜3万円程度の後見人報酬(ケースバイケース)がかかりますが、家族信託は基本的に不要です。
遺言書は「亡くなった後の財産の分け方」を決めるもので、生前の財産管理には使えません。成年後見制度は本人の判断能力が失われてからしか利用できず、家族が思い通りに動けないケースも多いです。どの制度が最適かは、ご家庭の財産構成や家族関係によって異なります。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 家族信託は認知症になってからでも設定できますか?
A. できません。家族信託の設定には委託者本人の判断能力が必要です。認知症を発症した後では契約が無効になるリスクがあります。「元気なうちに」設定することが大前提です。なお、軽度の認知症であれば公証人が意思能力を確認した上で公正証書を作成できる場合もありますが、発症後は選択肢が大幅に狭まります。少しでも将来が不安と感じたら、早めにご相談ください。
Q2. 信託した財産に相続税はかかりますか?
A. かかります。家族信託は財産を信託するだけで所有権の移転ではないため、相続税の節税効果はありません。ただし、認知症対策・資産凍結防止・二次相続の設計といった目的には非常に有効です。節税をご希望の場合は、生前贈与や生命保険の活用と組み合わせることをお勧めします。
Q3. 子どもが遠方に住んでいても受託者になれますか?
A. なれます。受託者に住所の制限はありません。当事務所にも、東京にお住まいのお子さんを受託者として、大阪・和歌山の不動産を信託するケースのご依頼を多くいただいています。不動産の信託登記はオンライン申請にも対応しており、ご相談もオンラインで承っておりますので、遠方の方もお気軽にご連絡ください。
家族信託を始めるにあたって大切なこと
1. 早めの相談が鉄則
家族信託の最大の前提は、委託者が契約時に判断能力を持っていることです。「もう少し様子を見てから」と先延ばしにしているうちに、本人の判断能力が低下してしまうと、せっかくの選択肢が使えなくなります。「いつかやろう」ではなく「元気なうちに」動くことが重要です。
2. 家族全員の理解と合意
受託者である子どもが「財産を管理している」という立場になるため、他の相続人から「自分だけ得をしているのではないか」と疑われるケースがあります。これを防ぐためにも、家族信託の設計段階から全員が内容を理解し、納得した上で進めることが大切です。お盆などの家族が集まる機会に話し合いの場を設けることをお勧めします。
3. 専門家への依頼
家族信託の契約書は、民法・信託法・税法など複数の法律にまたがる専門的な知識が必要です。インターネット上にひな型もありますが、そのまま使うと思わぬリスクが生じる場合があります。信託に精通した司法書士や弁護士に依頼することを強くお勧めします。当事務所は大阪・和歌山を中心に、家族信託の設計から登記手続きまで一括でサポートしております。
まとめ
家族信託は、従来の遺言書や成年後見制度では対応しきれなかった「認知症による財産凍結」「障害のある家族への継続的な財産給付」「二次相続先の指定」などに対応できる、柔軟な相続対策の手段です。
ただし万能ではなく、設計を誤るとかえってトラブルの原因にもなります。家族信託を検討される際は、必ず専門家に相談のうえ、家族全員で十分に話し合って進めることをお勧めします。
お盆に家族が集まるこの機会に、ぜひ一度、将来の財産管理について話し合ってみてください。「うちは大丈夫」と思っていても、実際に相談してみると思わぬ課題が見つかることが少なくありません。早めの備えが、ご家族みんなの安心につながります。
相続に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。初回のご相談は無料で承っております。
A&T司法書士事務所 / 相続・相続対策・事業承継の専門家
お盆に家族が集まるこの機会に、ぜひ一度、将来の財産管理について話し合ってみてください。「うちは大丈夫」と思っていても、実際に相談してみると思わぬ課題が見つかることが少なくありません。早めの備えが、ご家族みんなの安心につながります。
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A&T司法書士事務所 / 相続・相続対策・事業承継の専門家