遺産分割協議書の書き方|失敗しないためのポイントと注意点を司法書士が解説
こんにちは。司法書士の辻です。
新年度が始まり早くも半月が過ぎましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。当事務所では、この春も大阪・和歌山を中心に多くの相続のご相談をお受けしています。
ご相談の中でも特に多いのが、「遺産分割協議書って、どう書けばいいんですか?どんなことを書いていいのですか?」 というご質問です。
相続が発生し、遺言書がない場合には、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決める必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」といい、合意内容を書面にしたものが「遺産分割協議書」です。
遺産分割協議書は、遺言書がない場合、相続登記や銀行の預貯金解約など、あらゆる相続手続きで提出を求められる極めて重要な書類です。ところが、書き方に不備があると手続きが進まなかったり、後日トラブルの原因になったりすることも珍しくありません。
この記事では、遺産分割協議書の基本的な書き方から、実務でよくある失敗例、そして「ここだけは押さえてほしい」というポイントを、具体例を交えて解説します。
そもそも遺産分割協議書はなぜ必要なのか
遺産分割協議書が必要になるのは、主に次のような場面です。
- 不動産の相続登記を申請するとき
- 銀行や証券会社で被相続人の口座を解約・名義変更するとき
- 相続税の申告で遺産の取得割合を示すとき
- 相続人同士で後日の争いを防ぐための証拠として
特に、2024年4月から相続登記が義務化されたことにより、法務局に遺産分割協議書を提出する機会が以前よりも確実に増えています。経過措置の期限(2027年3月31日)も残り1年を切っていますので、早めの作成をおすすめします。
遺産分割協議書を作る前に準備すること
いきなり書き始めてしまうと、後から「相続人が足りなかった」「財産を見落としていた」といった事態になりかねません。まずは以下の3つを確実に済ませましょう。
1. 相続人の確定
被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、法定相続人が誰かを確認します。前婚のお子さんや、認知したお子さんがいるケースもありますので、戸籍の確認は欠かせません。(古い認知は見落とさないように注意が必要です)
2. 相続財産の調査
不動産、預貯金、株式、自動車、生命保険(受取人が「相続人」となっているもの。厳密には相続財産ではありませんが)など、すべての財産をリストアップします。不動産については、固定資産税の納税通知書や名寄帳(なよせちょう)で確認するのが確実です。
2026年2月から始まった所有不動産記録証明制度を活用すれば、被相続人名義の不動産を一覧で確認することもできるようになりました。
3. 相続人全員での話し合い
相続人全員が合意しなければ、遺産分割協議は成立しません。一人でも欠けた状態で作成された協議書は無効になります。遠方にお住まいの相続人がいる場合でも、電話やオンラインで意思確認を行い、最終的に全員の署名(または記名)・押印をもらう必要があります。
遺産分割協議書の基本的な書き方
遺産分割協議書には法律で定められた書式はありませんが、法務局や金融機関で確実に受理されるためには、以下の項目を漏れなく記載することが重要です。
| 記載項目 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| タイトル | 「遺産分割協議書」 | そのまま記載 |
| 被相続人の情報 | 氏名・最後の本籍・最後の住所・生年月日・死亡年月日 | 戸籍・住民票の除票と一致させる |
| 相続人の表示 | 各相続人の住所・氏名 | 印鑑証明書の記載と一致させる |
| 遺産の内容と分割方法 | 不動産は登記簿どおりに記載が望ましい、預貯金は金融機関名・支店名、口座番号はどちらでも可 | 後述の記載例を参照 |
| 署名・実印押印 | 相続人全員が自署(または記名)し、実印を押印 | 印鑑証明書を添付 |
| 作成日 | 協議が成立した日付 | 全員が合意した日 |
不動産の記載例
不動産は、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されているとおりに書くのが鉄則です。住所ではなく「所在」「地番」で記載します。
1. 不動産
(1)土地
所 在 大阪市中央区谷町二丁目
地 番 5番4
地 目 宅地
地 積 120.50平方メートル
上記の土地は、相続人 辻 花子 が取得する。
(2)建物
所 在 大阪市中央区谷町二丁目5番地4
家屋番号 5番4
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床 面 積 1階 60.25平方メートル
2階 55.30平方メートル
上記の建物は、相続人 辻 花子 が取得する。
預貯金の記載例
預貯金は、金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号を正確に記載します。
2. 預貯金
(1)○○銀行 △△支店 普通預金 口座番号 1234567
上記の預貯金は、相続人 辻 太郎 が取得する。
(2)ゆうちょ銀行 記号 12345 番号 67890123
上記の預貯金は、相続人 辻 花子 が取得する。
代償金がある場合の記載例
たとえば、不動産を長女が取得する代わりに、長女から長男に金銭を支払う「代償分割」の場合は、次のように記載します。
3. 代償金
相続人 辻 花子 は、上記1の不動産を取得する代償として、
相続人 辻 太郎 に対し、金500万円を令和8年6月30日までに
辻 太郎 名義の下記口座に振り込む方法により支払う。
○○銀行 △△支店 普通預金 口座番号 7654321
【事例】相続人の一人を除外してしまったケース
兵庫県にお住まいのCさん(60代・女性)は、お父様が亡くなり、Cさんとお兄様のDさんの2人で遺産分割協議書を作成しました。ところが、後から戸籍を確認したところ、お父様には若い頃に認知したEさんというお子さんがいることが判明しました。
Eさんを含めずに作成された遺産分割協議書は無効です。CさんとDさんは、改めてEさんに連絡を取り、3人全員で遺産分割協議をやり直す必要がありました。
このケースでは、Eさんの所在を調べるところから始めなければならず、戸籍の附票を取り寄せてようやく連絡先が判明しました。結局、当初から半年以上の時間がかかってしまいました。
「うちは相続人が少ないから大丈夫」と思っていても、戸籍を確認しなければ正確な相続人は分かりません。 出生から死亡までの連続した戸籍の取得は、遺産分割協議の大前提です。
遺産分割協議書を作成するときの5つの注意点
実務で特に気をつけていただきたいポイントを5つまとめます。
① 不動産は原則登記のとおりに書く 住所(住居表示)ではなく、登記事項証明書に記載された「所在」「地番」「家屋番号」で記載してください。表記が違うと登記が通らない可能性があります。
② 署名は極力自書し、実印を押す 相続人全員が原則自筆で署名(登記は記名でも可能)し、市区町村に届け出ている実印を押印します。認印やシャチハタでは司法、行政、金融機関等で受理されません。印鑑証明書も合わせて取得しておきましょう。
③ 印鑑証明書の住所と一致させる 協議書に記載する相続人の住所は、印鑑証明書に記載された住所と一字一句同じにしてください。「丁目」「番」「号」の表記も含めて統一する方がベターです。
④ 後日発見された財産への対応条項を入れる 協議書の最後に、「本協議書に記載のない遺産が後日発見された場合は、相続人○○が取得する」といった一文を加えておくと安心です。すべての財産を完璧に把握することは難しいため、この条項があるだけで将来の手間が省けます。
⑤ 協議書は相続人の人数分作成することが多い 遺産分割協議書は、相続人全員が各1通ずつ保管できるよう、人数分作成するのが一般的です。コピーではなく、全通に全員の実印を押印してください。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 遺産分割協議書は手書きでないとダメですか?
パソコンで作成して問題ありません。ただし、署名の部分だけは各相続人が自筆で書くことをおすすめします。法律上はパソコンでの記名+実印でも有効ですが、自署にしておいた方が本人の意思確認として確実であり、後日のトラブル防止にもつながります。
Q2. 相続人が遠方に住んでいる場合、どうすればいいですか?
遺産分割協議書を郵送でやり取りする方法が一般的です。1通の協議書を順番に回して署名・押印していく「持ち回り方式」のほか、相続人ごとに同じ内容の協議書を用意し、それぞれが署名・押印する「個別方式」もあります。当事務所でも、和歌山のご実家を相続されるケースで、東京や関東にお住まいの相続人と郵送でやり取りすることは日常的にあります。(海外の場合もあります)
Q3. 遺産分割協議書の作成を専門家に依頼した方がいいケースは?
以下のような場合は、専門家への依頼をおすすめします。不動産が含まれる場合(特にマンション)、相続人が多い場合、相続人の中に未成年者や認知症の方がいる場合、財産の種類が多い場合、相続人間で意見の対立がある場合などです。司法書士は遺産分割協議書の作成から相続登記までを一貫してサポートできますので、まとめてご依頼いただくことで手間と費用を抑えることができます。
まとめ――「正しい協議書」が円満な相続の第一歩
遺産分割協議書は、相続人全員の合意を形にする大切な書類です。一見シンプルに見えますが、不動産の表記ひとつ、住所の書き方ひとつで手続きが止まってしまうこともあります。
特に、相続登記の義務化に伴い、「急いで協議書を作らないと」と焦ってしまう方も増えていますが、急ぐあまりに不備のある協議書を作ってしまうと、かえって時間がかかる結果になりかねません。
不安な点がある場合は、ぜひ一度専門家にご相談ください。当事務所では、大阪・和歌山エリアを中心に、遺産分割協議書の作成から相続登記の申請まで、ワンストップでサポートしております。
相続に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。初回のご相談は無料で承っております。
A&T司法書士事務所 / 相続・相続対策・事業承継の専門家