家族信託で実現する安心の相続対策|仕組み・費用・手続きをわかりやすく解説

こんにちは。司法書士の辻です。

「親が認知症になったら、実家はどうなるんだろう……」「将来の相続に備えて、今のうちに何かできることはないだろうか」——そんなご不安を抱えていらっしゃる方は、年々増えているように感じます。

当事務所でも、大阪・和歌山を中心に相続対策のご相談をお受けしていますが、近年とくにお問い合わせが増えているのが家族信託(民事信託)です。

家族信託は、ご家族間の信頼関係をベースに、財産の管理や承継を柔軟に設計できる制度です。遺言書や成年後見制度ではカバーしきれない部分を補えるため、「第三の相続対策」とも呼ばれています。

この記事では、家族信託の基本的な仕組みから、具体的な活用事例、費用の目安、手続きの流れまで、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

家族信託とは?基本の仕組みを押さえよう

家族信託とは、財産を持っている方(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託し、その利益を特定の方(受益者)が受け取るという仕組みです。

たとえば、高齢のお父様(委託者)が、長男(受託者)に自宅の不動産を信託し、お父様ご自身(受益者)がそのまま住み続ける——というのが典型的なパターンです。

家族信託の登場人物

役割説明具体例
委託者財産を託す人お父様(81歳)
受託者財産を管理する人長男(48歳)
受益者利益を受ける人お父様(委託者と同じ場合が多い)

ポイントは、財産の「名義」は受託者に移るものの、実質的な利益は受益者が受け取るという点です。名義が移ることで、受託者が責任を持って財産を管理・運用できるようになります。

なぜ今、家族信託が注目されているのか

家族信託への関心が高まっている背景には、いくつかの社会的な要因があります。

認知症リスクへの備え

厚生労働省の推計によると、2025年時点で65歳以上の高齢者のうち約5人に1人が認知症になるとされています。認知症になると法的な判断能力が低下し、不動産の売却や預貯金の引き出しなどが困難になります。

成年後見制度を利用する方法もありますが、家庭裁判所の監督下に置かれるため、柔軟な財産活用が難しいケースが少なくありません。家族信託であれば、お元気なうちに信託契約を結んでおくことで、万が一の場合にもスムーズに財産管理を継続できます。

2024年4月からの相続登記義務化

2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記を行わないと過料の対象となりました。さらに2026年4月からは住所変更登記の義務化もスタートします。

こうした法改正の流れの中で、「相続が起きてから慌てるのではなく、事前にしっかり準備しておこう」と考える方が増えています。家族信託は、まさにその事前準備として有効な選択肢です。

家族信託の具体的な活用事例

ここからは、実際にどのような場面で家族信託が活用されているか、事例を交えてご紹介します(プライバシー保護のため、内容は一部変更しています)。

事例1:認知症に備えた自宅の管理

大阪市にお住まいのAさん(78歳)は、ご主人を亡くされた後、一人暮らしをされていました。お子様は長女のBさん(52歳)で、近隣の市にお住まいです。

Aさんは「自分が施設に入ることになったら、自宅を売却して施設の費用に充てたい」とお考えでしたが、もし認知症になってしまったら自宅の売却手続きが進められないことを心配されていました。

そこで、Aさんを委託者兼受益者、Bさんを受託者とする家族信託契約を締結しました。これにより、将来Aさんの判断能力が低下した場合でも、BさんがAさんのために自宅を売却し、その代金をAさんの生活費や施設費用に充てることが可能になりました。

Aさんは「これで安心して暮らせます」とおっしゃっていたのが印象的でした。

事例2:賃貸物件の管理と次世代への承継

和歌山県にお住まいのCさん(82歳)は、市内にアパートを2棟お持ちでした。管理は長男のDさん(55歳)がサポートしていましたが、入居者の契約更新や修繕の手配など、すべてCさん名義で行う必要があり、Cさんの体調が優れない日は手続きが滞ることもありました。

この場合、アパート2棟を信託財産とし、Dさんを受託者に指定しました。さらに、Cさんが亡くなった後の受益者(二次受益者)をDさんとする内容にすることで、遺言書がなくても財産の承継先を事前に決めることができました。

Cさんは「賃貸経営を息子に安心して任せられるようになった」と喜ばれていました。

家族信託と他の制度との比較

相続対策には複数の選択肢があります。それぞれの特徴を比較してみましょう。

項目家族信託遺言書成年後見制度
効力の発生時期契約締結時から本人の死亡後家裁の審判確定後
認知症対策○(事前に契約が必要)×(死後のみ有効)○(発症後に申立て)
財産管理の柔軟性高い低い(裁判所の監督)
二次相続以降の指定○(可能)×(一代限り)×(不可)
費用中〜高低〜中中(毎月報酬が発生)
手続きの複雑さやや複雑比較的簡単複雑

このように、それぞれの制度にメリット・デメリットがあります。ご状況に応じて複数の制度を組み合わせて活用するのが最も効果的です。たとえば、不動産は家族信託で管理しつつ、預貯金の分配については遺言書で指定する、といった方法が実務上よく見られます。

家族信託にかかる費用の目安

「家族信託は費用が高いのでは?」というご質問をよくいただきます。費用は信託する財産の種類や規模によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

費用項目目安
コンサルティング・信託設計費用30万円〜70万円程度
公正証書作成費用3万円〜10万円程度
信託登記費用(不動産がある場合)固定資産税評価額の0.3〜0.4%
登録免許税固定資産税評価額の0.3%(土地)、0.4%(建物)

初期費用はたしかにまとまった金額になりますが、成年後見制度では毎月2〜6万円程度の報酬が継続的に発生することを考えると、長期的には家族信託の方が経済的な負担が軽くなるケースも多くあります。

費用については個別の事情により大きく変わりますので、詳しくは専門家にご相談いただくことをおすすめします。

家族信託の手続きの流れ

家族信託の設定は、一般的に以下のステップで進めていきます。

ステップ1:ご相談・ヒアリング ご家族の状況、財産の内容、将来のご希望などを丁寧にお伺いします。

ステップ2:信託スキームの設計 ヒアリング内容をもとに、誰が委託者・受託者・受益者になるか、どの財産を信託するか、信託の終了事由は何かなど、具体的な信託の設計を行います。

ステップ3:信託契約書の作成 設計した内容を法的に有効な契約書にまとめます。通常は公正証書で作成することを強くおすすめしています。公正証書にすることで、金融機関での信託口口座の開設がスムーズになり、将来のトラブル防止にもつながります。

ステップ4:信託登記の申請 不動産が信託財産に含まれる場合は、法務局で信託登記を行います。これにより、不動産の名義が受託者に変更され、受託者が適法に管理・処分できるようになります。

ステップ5:信託口口座の開設 金銭を信託する場合は、受託者名義の信託口口座を金融機関で開設します。受託者個人の財産と信託財産を分別管理するために重要な手続きです。

ご相談から信託の設定完了まで、おおむね2〜3か月程度を見ていただくのが一般的です。(例外あり)

よくあるご質問(Q&A)

Q1:家族信託は誰でも利用できますか?

はい、特別な資格や条件は必要ありません。ただし、委託者に判断能力があるうちに契約を結ぶ必要があります。認知症が進行して判断能力が失われてからでは、信託契約を締結できなくなりますので、「まだ早いかな」と思われるくらいのタイミングでご検討いただくのがベストです。

Q2:家族信託をすると贈与税がかかりますか?

委託者と受益者が同一人物である自益信託の場合、贈与税は原則としてかかりません。これは、実質的に財産の利益を受ける人が変わらないためです。ただし、委託者と受益者が異なる場合は贈与税の課税対象となる可能性がありますので、税務上の取り扱いについては税理士への確認もあわせておすすめします。

Q3:受託者が先に亡くなった場合はどうなりますか?

信託契約の中で後継受託者(次の受託者)をあらかじめ定めておくことができます。万が一、受託者に不測の事態が起きた場合でも、信託が中断しないよう備えておくことが大切です。当事務所では、こうしたリスクへの対応も含めて信託設計をサポートしています。

まとめ:家族信託は「元気なうち」がカギ

家族信託は、認知症対策から不動産の管理、次世代への円滑な財産承継まで、幅広いニーズに対応できる制度です。ただし、何度も申し上げるとおり、ご本人の判断能力があるうちに手続きを完了させる必要があります

「まだうちは大丈夫」と思っているうちが、実は一番の準備のタイミングです。

当事務所では、大阪・和歌山エリアを中心に、個人のお客様の相続対策をサポートしております。また、東京をはじめとする関東圏のクライアント様からも、事業承継や法人に関するご相談を多数お受けしています。地域を問わず、まずはお気軽にご相談ください。

相続に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。初回のご相談は無料で承っております。


A&T司法書士事務所 / 相続・相続対策・事業承継の専門家