「相続登記をお願いしたいのですが、相続税も見てもらえますか?」

相続のご相談を受けていると、このような質問をよくいただきます。

結論から言うと、司法書士は相続税の申告を行うことができません。相続税は税理士の専門分野です。

しかし、相続登記の現場では、相続税と無関係ではいられません。

本記事では、司法書士の立場から見た相続税について、登記実務との関わりや、お客様にお伝えしていることをまとめました。


第1章 司法書士と相続税の関係

1-1 司法書士は相続税の申告ができない

まず大前提として、司法書士は相続税の申告業務を行うことができません

相続税の申告は税理士の独占業務です(税理士法第52条)。司法書士が相続税の申告書を作成したり、税務相談に応じたりすることは、法律で禁止されています。

専門家できること
税理士相続税の申告、税務相談、節税アドバイス
司法書士相続登記、遺産分割協議書作成、戸籍収集

1-2 でも、相続税と無関係ではいられない

とはいえ、相続登記の現場では、相続税の話題は避けて通れません。

【よくある場面】

  • 「相続税がかかるかどうか、目安を教えてほしい」
  • 「不動産の評価額はいくらですか?」
  • 「遺産分割の仕方で相続税は変わりますか?」
  • 「小規模宅地等の特例って何ですか?」

これらの質問に対して、「私は司法書士なのでわかりません」と突き放すのは不親切です。

かといって、踏み込んだ税務アドバイスをすることはできません。

司法書士としては、「一般的な知識としてお伝えできる範囲」と「税理士に確認すべき範囲」を明確にして、お客様にご案内しています。

1-3 この記事の目的

この記事では、以下のことをお伝えします。

  • 相続税の基本的な仕組み(一般的な知識として)
  • 相続登記との関係で知っておくべきこと
  • どんな場合に税理士に相談すべきか

この記事は税務アドバイスではありません。相続税の具体的な計算や申告については、必ず税理士にご相談ください。


第2章 相続税の基本(一般知識として)

2-1 相続税とは

相続税とは、亡くなった方(被相続人)の財産を相続したときにかかる税金です。

相続した財産の価額に応じて、相続人が納付します。

2-2 相続税がかかる人・かからない人

相続税は、すべての相続にかかるわけではありません

遺産の総額が「基礎控除」を超える場合にのみ、相続税がかかります。

基礎控除の計算

基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人の数基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円
5人6,000万円

遺産の総額が基礎控除以下であれば、相続税はかかりません。申告も不要です。

2-3 相続税がかかる割合

国税庁の統計によると、相続税がかかる人の割合は**約9〜10%**です(令和4年分)。

つまり、約9割の相続では、相続税はかかりません

年分被相続人数課税対象者数課税割合
令和4年約157万人約15万人約9.6%

2-4 相続税の申告期限

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

申告期限
1月15日に死亡11月15日まで
3月31日に死亡翌年1月31日まで

期限を過ぎると、延滞税や加算税がかかることがあります。


第3章 相続登記と相続税の関係

3-1 相続登記と相続税は別の手続き

相続登記と相続税の申告は、まったく別の手続きです。

項目相続登記相続税の申告
届出先法務局税務署
担当専門家司法書士税理士
期限相続を知った日から3年以内相続を知った日から10か月以内
対象すべての相続(不動産がある場合)基礎控除を超える相続のみ

ポイント:

  • 相続登記をしても、相続税の申告は別途必要(該当する場合)
  • 相続税を申告しても、相続登記は別途必要
  • 相続税がかからなくても、相続登記は必要

3-2 不動産の評価方法の違い

相続登記と相続税では、不動産の評価方法が異なります

目的評価方法使う場面
相続登記(登録免許税)固定資産評価額登録免許税の計算
相続税相続税評価額(路線価等)相続税の計算

固定資産評価額

市区町村が固定資産税の課税のために算定する評価額です。

固定資産税の納税通知書に記載されています。

相続税評価額

国税庁が定めるルールで計算する評価額です。

土地は路線価方式または倍率方式で評価します。建物は固定資産評価額で評価します。

一般的に、相続税評価額は時価の約8割程度と言われています。

3-3 司法書士として気をつけていること

相続登記のご依頼を受けた際、以下の点を確認・ご案内しています。

確認事項理由
遺産の概算額相続税がかかりそうかどうかの目安
相続税の申告期限10か月以内という期限をお伝え
税理士への相談の要否基礎控除を超えそうな場合はご紹介

第4章 「相続税がかかりそうかどうか」の目安

4-1 目安として確認すること

ご相談の際、相続税がかかりそうかどうかの目安をお伝えするために、以下を確認しています。

確認事項内容
法定相続人の数基礎控除額を計算するため
不動産の評価額固定資産評価証明書で確認
預貯金の概算額おおよその金額
その他の財産株式、生命保険、退職金など
借金借入金、未払金など(マイナス財産)

4-2 ざっくりした目安

あくまで目安ですが、以下のような場合は相続税がかからない可能性が高いです。

相続人の数相続税がかからない目安
1人遺産総額が3,600万円以下
2人遺産総額が4,200万円以下
3人遺産総額が4,800万円以下

ただし、これはあくまで目安です。 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などを適用する場合は、相続税がかからなくても申告が必要なケースがあります。

正確な判断は税理士に確認してください。

4-3 要注意なケース

以下のようなケースは、相続税がかかる可能性があるため、税理士への相談をおすすめしています。

ケース理由
都市部に不動産がある路線価が高い
不動産を複数所有評価額が高くなりやすい
預貯金が多い基礎控除を超えやすい
生命保険金があるみなし相続財産として課税対象
生前贈与があった相続財産に加算される場合がある
事業を営んでいた自社株式の評価が高い場合がある

第5章 遺産分割と相続税

5-1 遺産分割の仕方で相続税は変わる?

「遺産分割の仕方によって、相続税は変わりますか?」

この質問もよくいただきます。

結論としては、「変わる場合がある」です。

相続税には様々な特例や控除があり、誰がどの財産を相続するかによって、適用できる特例が変わるためです。

5-2 代表的な特例

小規模宅地等の特例

被相続人が住んでいた土地などを、一定の要件を満たす相続人が取得した場合、評価額を最大80%減額できる特例です。

区分減額割合限度面積
特定居住用宅地等80%330㎡
特定事業用宅地等80%400㎡
貸付事業用宅地等50%200㎡

この特例を使えるかどうかで、相続税額が大きく変わります。

ただし、適用には細かい要件があり、誰が相続するかによって使えるかどうかが変わります

配偶者の税額軽減

配偶者が相続した財産については、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。

配偶者が多くの財産を相続すれば、一次相続の税負担は軽くなります。

ただし、二次相続(配偶者が亡くなったときの相続)では、基礎控除が減り、税負担が重くなる可能性があります。

5-3 司法書士の立場として

遺産分割協議書の作成は司法書士の業務ですが、税務上のアドバイスはできません

遺産分割の仕方によって相続税が変わる可能性がある場合は、先に税理士に相談してから遺産分割を決めることをおすすめしています。

遺産分割の進め方おすすめ
相続税がかからない場合そのまま遺産分割協議書を作成
相続税がかかりそうな場合先に税理士に相談 → 遺産分割を決定 → 協議書作成

遺産分割協議書を作成してから税理士に相談すると、「この分け方だと特例が使えない」ということがあり得ます。順番にご注意ください。


第6章 相続登記の登録免許税

6-1 相続登記にかかる税金

相続登記を申請する際、登録免許税という税金がかかります。

これは相続税とは別の税金で、登記申請時に法務局に納付します。

6-2 登録免許税の計算

登録免許税 = 不動産の固定資産評価額 × 0.4%

固定資産評価額登録免許税
1,000万円4万円
2,000万円8万円
3,000万円12万円
5,000万円20万円

6-3 免税措置

一定の場合、登録免許税が免税になります。

免税措置内容
相続登記の促進のための免税①相続により土地を取得した者が、相続登記をする前に死亡した場合、その者を名義人とする登記は免税
相続登記の促進のための免税②不動産の価額が100万円以下の土地は免税

第7章 税理士との連携

7-1 税理士をご紹介するケース

当事務所では、以下のようなケースで税理士をご紹介しています。

ケース理由
遺産総額が基礎控除を超えそう相続税の申告が必要
小規模宅地等の特例を使いたい要件の確認、申告が必要
遺産分割の仕方で悩んでいる税務上のアドバイスが必要
二次相続も含めて考えたい長期的な税務戦略が必要
生前贈与があった相続財産への加算の確認
事業承継を伴う自社株式の評価、事業承継税制

7-2 連携の流れ

相続税の申告が必要な場合、以下のような流れで進めることが多いです。

① 相続発生

② 当事務所にご相談(相続登記のご依頼)

③ 遺産の概要を確認 → 相続税がかかりそうな場合、税理士をご紹介

④ 税理士と相談 → 遺産分割の方針を決定

⑤ 当事務所で遺産分割協議書を作成、相続登記を申請

⑥ 税理士が相続税の申告(10か月以内)

ポイント: 相続税がかかりそうな場合は、遺産分割を決める前に税理士に相談することをおすすめしています。

7-3 ワンストップでご相談いただけます

「司法書士と税理士、別々に相談するのは面倒」という方もいらっしゃると思います。

当事務所では、信頼できる税理士と連携しており、ワンストップでご相談いただけます

最初に当事務所にご相談いただければ、必要に応じて税理士をご紹介し、連携して相続手続きを進めます。


第8章 登記の現場で感じること

8-1 「相続税がかからない=何もしなくていい」ではない

相続税がかからない方でも、相続登記は必要です。

2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しなければなりません。

「相続税がかからないから、何も手続きしなくていい」と思っている方がいらっしゃいますが、それは誤解です。

相続税相続登記
かからない必要(義務化)
かかる必要(義務化)

8-2 「税理士に相談したら、登記は別と言われた」

逆に、税理士に相続税の相談をしたところ、「登記は司法書士に相談してください」と言われて当事務所にいらっしゃる方もいます。

税理士と司法書士は、それぞれの専門分野が異なります。

専門家専門分野
税理士相続税の申告、税務全般
司法書士相続登記、不動産登記全般
弁護士相続争い、遺産分割調停・訴訟

相続手続きでは、複数の専門家が関わることがあります。「どこに相談すればいいかわからない」という方は、まずはどちらかに相談していただければ、適切な専門家をご紹介できます。

8-3 相続登記を先にするか、相続税申告を先にするか

お客様から「相続登記と相続税申告、どちらを先にすればいいですか?」と聞かれることがあります。

結論としては、どちらが先でも構いません。

ただし、以下の点にご注意ください。

状況おすすめの進め方
相続税がかからない相続登記を進めてOK
相続税がかかりそう先に税理士に相談 → 遺産分割を決定 → 登記
遺産分割で特例を使いたい税理士と相談してから遺産分割を決定

相続税の申告期限は10か月、相続登記の期限は3年なので、相続税の方が期限が短いです。 相続税がかかりそうな場合は、早めに税理士に相談することをおすすめします。

8-4 固定資産評価額と相続税評価額の混同

「固定資産税の通知書に書いてある金額が相続税の評価額ですか?」という質問をいただくことがあります。

これは異なります。

評価額使う場面金額の目安
固定資産評価額固定資産税、登録免許税時価の約7割
相続税評価額相続税時価の約8割
時価(実勢価格)実際の売買100%

相続税評価額は、路線価や倍率表を使って計算する必要があり、固定資産評価額とは異なります。


第9章 よくある質問(Q&A)

Q1. 司法書士に相続登記を頼めば、相続税の申告もやってもらえますか?

A. いいえ、できません。

相続税の申告は税理士の独占業務です。司法書士が行うことは法律で禁止されています。

相続税の申告が必要な場合は、税理士をご紹介します。

Q2. 相続税がかかるかどうか、司法書士に判断してもらえますか?

A. 正確な判断はできませんが、目安はお伝えできます。

基礎控除の計算方法や、相続税がかかりそうかどうかの目安はお伝えできます。ただし、最終的な判断は税理士に確認してください。

Q3. 相続登記をすると、税務署に連絡が行きますか?

A. 直接の連絡は行きません。

ただし、税務署は様々な情報源から相続の発生を把握しています。相続登記をしたかどうかにかかわらず、相続税の申告が必要な場合は申告してください。

Q4. 相続税がかからなければ、何も届出は不要ですか?

A. 相続税の申告は不要ですが、相続登記は必要です。

相続税がかからない場合でも、不動産の名義変更(相続登記)は必要です。2024年4月から相続登記は義務化されています。

Q5. 相続税の申告と相続登記、両方の期限に間に合わない場合はどうすればいいですか?

A. 相続税は10か月、相続登記は3年の期限があります。

相続税の申告期限の方が短いので、相続税がかかりそうな場合は早めに税理士に相談してください。遺産分割が間に合わない場合でも、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出して申告する方法があります(詳しくは税理士にご確認ください)。

Q6. 亡くなった人が確定申告をしていた場合、何か手続きが必要ですか?

A. 準確定申告が必要な場合があります。

亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が準確定申告をする必要がある場合があります。期限は相続開始を知った日から4か月以内です。これも税理士の業務ですので、税理士にご相談ください。


第10章 まとめ

司法書士と相続税の関係

ポイント内容
司法書士は相続税の申告ができない税理士の独占業務
でも、無関係ではいられない登記の現場で相続税の話題は出る
目安はお伝えできる基礎控除、かかりそうかどうかの目安
税理士と連携必要な場合はご紹介

相続登記と相続税の違い

項目相続登記相続税
届出先法務局税務署
担当専門家司法書士税理士
期限3年10か月
対象すべての相続基礎控除を超える相続

こんな場合は税理士に相談を

  • 遺産総額が基礎控除を超えそう
  • 小規模宅地等の特例を使いたい
  • 遺産分割の仕方で悩んでいる
  • 生前贈与があった
  • 事業承継を伴う

当事務所のサポート

当事務所では、相続登記を中心に、相続手続きをサポートしています。

相続税がかかりそうな場合は、信頼できる税理士をご紹介し、連携して手続きを進めます。

「相続登記と相続税、どこに相談すればいいかわからない」という方は、まずは当事務所にご相談ください。


本記事は一般的な情報提供を目的としており、税務アドバイスではありません。相続税の具体的な計算や申告については、必ず税理士にご相談ください。