在日中国人の方が亡くなり、日本にある不動産を相続するケースが近年増えています。

日中国交正常化(1972年)から約50年が経過し、来日第一世代の方が高齢となり、相続が発生する事例が出てきました。しかし、日本と中国では戸籍制度も相続法も異なるため、通常の相続登記とは違った対応が求められます。

本記事では、被相続人が中国籍で、日本にある不動産を相続する場合の実務上のポイントを解説します。


準拠法の問題 ― どの国の法律が適用されるか

原則:被相続人の本国法

国際相続では、「法の適用に関する通則法」第36条により、被相続人の本国法が適用されます。

被相続人が中国籍であれば、まず中国法が準拠法の候補になります。

中国法の考え方 ― 不動産は所在地法

ところが、中国の「渉外民事関係法律適用法」第31条は、不動産の相続について次のように定めています。

不動産の法定相続は、不動産所在地の法律による。

つまり、中国法は「日本にある不動産の相続は、日本の法律で処理せよ」と言っているのです。

反致により日本法が適用される

日本の通則法第41条は、外国法が日本法を指定する場合には日本法を適用する「反致」を認めています。

結果として、以下の流れで日本法が適用されます。

  1. 通則法36条 → 被相続人の本国法=中国法を適用
  2. 中国法 → 不動産は所在地法=日本法を適用せよ
  3. 通則法41条(反致) → 日本法を適用

したがって、相続人の範囲・法定相続分・遺産分割の方法はすべて日本の民法に従います。

この点は非常に重要です。中国の相続法と日本の民法では相続人の範囲や相続分が異なりますので、どちらが適用されるかで結果が変わる可能性があります。


最大の難関 ― 相続人の証明

日本の相続登記では「戸籍」で相続人を証明する

日本の相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集し、相続人が誰であるかを証明します。

しかし、被相続人が中国籍の場合、日本の戸籍は存在しません。

中国の「戸口本(户口本)」は日本の戸籍と違う

中国にも戸籍に似た「戸口本(户口本)」という制度がありますが、日本の戸籍とは根本的に異なります。

日本の戸籍中国の戸口本
記載内容出生・婚姻・死亡・養子縁組等の身分変動をすべて記録現在の世帯構成員と基本情報を記載
履歴の追跡出生から死亡まで連続して追跡可能過去の変動履歴を網羅的に追跡するのは困難
除籍の概念死亡・婚姻等で除籍され、除籍簿として保管抹消後の保管制度が日本とは異なる
親族関係の証明戸籍を辿ることで親子・兄弟関係を証明できる戸口本だけでは親族関係を網羅的に証明しにくい

つまり、日本のように「出生から死亡までの戸籍を集めれば相続人の範囲が証明できる」という仕組みが中国にはありません。

相続人の証明方法

中国籍の被相続人の相続関係を証明するために、以下の書類を組み合わせて対応します。

① 中国の公証処(公证处)で取得する書類

中国では、公証処という公的機関が各種証明書を発行しています。相続手続で主に使われるのは以下の書類です。

  • 親族関係公証書:被相続人の親族関係(配偶者・子・親など)を証明する書類
  • 死亡公証書:被相続人の死亡を証明する書類
  • 出生公証書:出生に関する事実を証明する書類
  • 婚姻関係公証書:婚姻の事実を証明する書類

これらの公証書を組み合わせることで、相続人が誰であるかを立証します。

② 宣誓供述書(Affidavit)

公証書だけでは証明が不十分な場合、相続人全員が「他に相続人がいない」ことを宣誓供述書で補完することがあります。

③ 被相続人の日本での記録

被相続人が日本に在留していた場合、以下の書類も併せて使用します。

  • 住民票の除票(または外国人登録原票の写し)
  • 在留カードの記録

書類の認証ルート ― アポスティーユと領事認証

中国の公証処で取得した書類を日本の法務局に提出するためには、原則としてその書類が真正なものであることの認証が必要です。

ハーグ条約加盟前(2023年11月7日より前)

中国がハーグ条約(外国公文書の認証を不要とする条約)に加盟する前は、以下の手続が必要でした。

  1. 中国の公証処で公証書を取得
  2. 中国外交部(外務省に相当)で認証
  3. 在中国日本大使館(または領事館)で認証

いわゆる「領事認証」ルートで、非常に手間と時間がかかりました。

ハーグ条約加盟後(2023年11月7日以降)

中国は2023年11月7日にハーグ条約に加盟しました。これにより、現在は以下の手続で済みます。

  1. 中国の公証処で公証書を取得
  2. 中国外交部(または省レベルの外事弁公室)でアポスティーユを取得

アポスティーユが付された書類は、日本の法務局にそのまま提出できます。領事認証が不要になったことで、手続が大幅に簡素化されました。

ただし、2023年11月7日より前に取得した書類は、旧来の領事認証ルートで認証する必要があります。 認証ルートは書類の取得時期によって異なりますので、注意が必要です。


遺産分割協議と必要書類

遺産分割協議書

反致により日本法が適用されるため、遺産分割協議書の作成方法は日本の相続手続と同じです。

ただし、相続人が中国籍の場合は以下の点に注意が必要です。

印鑑証明書が取得できない場合

  • 日本に住民登録がある中国籍の方 → 印鑑登録をしていれば印鑑証明書を取得可能
  • 印鑑登録をしていない場合 → サイン証明(署名証明)で対応

日本に在住で住民登録がある方は印鑑登録ができますので、まずはそちらを確認します。

必要書類のまとめ

書類取得先備考
親族関係公証書中国の公証処相続人の範囲の証明
死亡公証書中国の公証処被相続人の死亡証明
アポスティーユ中国外交部等2023年11月以降の書類に対応。ケースバイケース。
住民票の除票日本の市区町村被相続人の日本での住所証明
不動産の登記事項証明書法務局対象不動産の確認
遺産分割協議書相続人が作成印鑑証明書またはサイン証明添付
相続人の住民票日本の市区町村日本在住の場合
日本語訳翻訳者が作成中国語書類すべてに添付(翻訳者の署名・押印必要)

実務上の注意点

1. 書類の取得に時間がかかる

中国の公証処での書類取得は、日本から依頼する場合、本国の親族に協力してもらうか、現地の代理人に依頼する必要があります。

取得までに数か月かかることも珍しくありません。相続税の申告期限(10か月)を見据えて、早めに着手することが重要です。

2. 翻訳が必要

中国語で作成された書類はすべて日本語訳を添付する必要があります。翻訳者は特に資格は不要ですが、翻訳者の署名・押印が必要です。(たまに連絡先を求められることもあると聞いたことがあります。)

3. 法務局との事前相談

被相続人が外国籍の場合の相続登記は、法務局によって求められる書類が異なることがあります。事前に管轄の法務局に相談し、必要書類を確認しておくことを強くおすすめします。

4. 相続人の範囲に注意

反致により日本法が適用されるとはいえ、被相続人の親族関係の事実関係は中国の記録で確認することになります。

中国の相続法では相続人の範囲が日本と異なるため(例えば、中国法では祖父母も第二順位の相続人です)、準拠法がどちらかによって結果が変わりうるケースもあります。準拠法の確認は慎重に行う必要があります。

5. 前例が少ない

日中国交正常化(1972年)から約50年。来日第一世代の方が日本で不動産を取得し、そのまま亡くなるというケースは、歴史的にまだ日が浅いこともあり、前例が多くありません。

法務局の担当者にとっても初めてのケースということがあり得ます。丁寧に説明し、必要に応じて補足書類を追加で求められることを想定しておくのがよいでしょう。


まとめ

ポイント内容
準拠法中国法→不動産所在地法(日本法)→反致で日本法適用
相続人の証明中国の公証処で親族関係公証書等を取得
認証2023年11月以降はアポスティーユ、それ以前は領事認証
遺産分割日本法に従い、遺産分割協議書を作成
注意点書類取得に時間がかかる、前例が少なく法務局との事前相談が重要

被相続人が中国籍の場合の相続登記は、準拠法の問題と書類収集の問題の両方に対応する必要があり、通常の相続登記に比べて難易度が高い手続です。

当事務所では、外国籍の方の相続登記についても取り扱った経験があります。お気軽にご相談ください。


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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件についてはご相談ください。