「在庫や機械設備を担保にお金を借りたい」——不動産を持たない企業が資金調達を行う方法として、動産譲渡担保があります。

動産譲渡担保を第三者に対抗するためには、動産譲渡登記が有効な手段です。ABL(Asset Based Lending、動産・債権担保融資)の普及に伴い、動産譲渡登記の活用が増えています。

本記事では、動産譲渡登記の仕組み、手続き、活用方法を解説します。


動産譲渡登記とは

動産譲渡登記とは、動産(在庫、機械設備など)の譲渡について、法務局に登記する制度です。

動産・債権譲渡特例法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)に基づいて、2005年(平成17年)に創設されました。

動産譲渡の対抗要件

民法上、動産譲渡の対抗要件は「引渡し」です。しかし、担保目的で譲渡する場合、譲渡人(借主)が動産を占有し続ける「占有改定」による引渡しが一般的です。

占有改定は外形上わかりにくいため、二重譲渡や他の債権者との優劣で問題が生じることがあります。

動産譲渡登記は、この問題を解決するために設けられた制度で、登記をすることで「引渡し」があったものとみなされます。


動産譲渡登記のメリット

1. 対抗要件の明確化

登記によって対抗要件を具備できるため、二重譲渡などのリスクを軽減できます。

2. 公示機能

登記事項証明書を取得すれば、誰でも動産譲渡の有無を確認できます。

3. 占有改定の問題を回避

占有改定では、外形上、譲渡の有無がわかりませんが、登記があれば明確です。

4. 集合動産の担保設定

在庫など、流動する集合動産についても登記が可能です。


動産譲渡登記の対象

登記できる動産

法人が譲渡人となる動産譲渡が対象です。

  • 機械設備
  • 工場の生産設備
  • 在庫商品(集合動産)
  • 車両(自動車登録されていないもの)
  • 家畜
  • その他の動産

登記できないもの

  • 個人が譲渡人となる場合(法人限定)
  • 自動車(登録自動車)
  • 船舶(登記・登録されるもの)
  • 航空機
  • その他、特別法で登記・登録制度があるもの

動産譲渡登記の活用場面

1. ABL(動産担保融資)

金融機関が、企業の在庫や機械設備を担保として融資を行う際に利用されます。

2. リース取引

リース会社がリース物件の所有権を明確にするために利用することがあります。

3. 売掛債権とセットでの担保設定

債権譲渡登記と組み合わせて、動産・債権を一体として担保にするケースがあります。

4. 事業承継・M&A

事業譲渡において、動産の譲渡を明確にするために利用されることがあります。


登記の手続き

管轄

動産譲渡登記は、東京法務局(動産譲渡登記所)に一元的に申請します。中野にあります。

全国どこの動産についても、東京法務局に申請します。

申請方法

  • オンライン申請:登記・供託オンライン申請システムを利用
  • 書面申請:東京法務局に郵送または持参

実務上は、現状、事前提供方式を用いた書面申請が一般的です。

申請人

譲渡人(動産を譲渡する法人)と譲受人(動産を譲り受ける者)の共同申請が原則です。

必要書類

書類備考
動産譲渡登記申請書オンラインまたは書面
譲渡人の資格証明書法人の登記事項証明書
譲受人の資格証明書法人の場合
代理権限証明書委任状など

動産の特定方法

登記申請にあたり、対象となる動産を特定する必要があります。

個別動産の場合

  • 動産の種類
  • 製造者名、型番、製造番号など

集合動産の場合

  • 動産の種類
  • 所在場所(倉庫の住所など)
  • 保管方法

集合動産の場合、「○○倉庫に保管される○○製品」というように、種類と所在場所で特定します。


登録免許税

登記の種類登録免許税
動産譲渡登記1件につき 7,500円
登記事項の変更・更正1件につき 3,000円
抹消登記1件につき 1,000円
延長登記1件につき 3,000円

動産譲渡登記は、不動産登記に比べて登録免許税が安価です。


登記の存続期間

動産譲渡登記には存続期間があります。

  • 原則:10年以内で定める
  • 延長:存続期間満了前に延長登記が可能(延長後も最長10年)

存続期間が満了すると、登記は抹消されます。担保権を維持する場合は、期間内に延長登記を行う必要があります。


登記事項証明書の取得

動産譲渡登記の内容は、登記事項証明書または登記事項概要証明書で確認できます。

種類内容請求できる人
登記事項証明書詳細な登記内容譲渡人、譲受人、利害関係人
登記事項概要証明書概要のみ誰でも請求可

登記事項概要証明書は、特定の法人が譲渡人となっている動産譲渡登記の有無を調査するために利用されます。


債権譲渡登記との違い

動産譲渡登記と債権譲渡登記は、いずれも動産・債権譲渡特例法に基づく制度ですが、対象が異なります。

項目動産譲渡登記債権譲渡登記
対象動産金銭債権
譲渡人法人のみ法人のみ
管轄東京法務局東京法務局
登録免許税7,500円7,500円〜

ABLでは、動産と債権の両方を担保にすることが多く、両方の登記を併せて行うことがあります。


実務上の注意点

1. 動産の特定に注意

動産の特定が不十分だと、担保権の効力に疑義が生じる可能性があります。特に集合動産の場合、所在場所と種類を明確に特定することが重要です。

2. 存続期間の管理

存続期間が満了すると登記は抹消されます。融資期間に合わせて存続期間を設定し、必要に応じて延長登記を忘れないようにしましょう。

3. 占有改定との併用

動産譲渡登記だけでなく、占有改定も併せて行うことで、対抗要件をより確実にすることができます。

4. 善意取得への対応

動産には即時取得(善意取得)の制度があり、登記があっても善意の第三者に対抗できない場合があります。この点は動産担保の限界として認識しておく必要があります。


当事務所の対応実績

動産譲渡登記は、取り扱う司法書士事務所が限られています。

当事務所では、金融機関からの依頼を受け、ABLに伴う動産譲渡登記を複数手がけてまいりました。

動産譲渡登記、債権譲渡登記について、お気軽にご相談ください。


よくあるご質問

Q. 個人でも動産譲渡登記はできますか?

いいえ、動産譲渡登記は法人が譲渡人となる場合に限られます。個人が譲渡人となる場合は、登記の対象外です。

Q. 登記をしないと担保権は無効ですか?

いいえ、登記は対抗要件であり、効力発生要件ではありません。登記をしなくても担保権自体は有効ですが、第三者に対抗するためには登記(または引渡し)が必要です。

Q. 在庫が入れ替わっても担保権は維持されますか?

集合動産譲渡担保の場合、設定時に特定した種類・所在場所の範囲内であれば、個々の動産が入れ替わっても担保権は及びます。


まとめ

動産譲渡登記は、動産を担保とした資金調達(ABL)を行う際に有効な制度です。

  • 法人が譲渡人となる動産譲渡が対象
  • 東京法務局に一元的に申請
  • 登録免許税は7,500円
  • 存続期間は最長10年(延長可能)

動産譲渡登記についてご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件についてご相談ください